夕暮れの薄闇の中、その火は旅人達の帰りを待つように揺れていた。その灯りに照らされて、一枚の木の板がその存在を主張していた。作られてからもう半世紀以上は立っているだろう。表面に塗られていた上塗り剤はもう殆ど剥げ落ちて、作りたての木材にあるようなつやつやとした光沢は見られない。その木目はまるで老人の皺のように深く、灯りの動きに合わせて黒い影をちらつかせる。明るく談笑する冒険者、仲間を失って暗く沈んだ冒険者。こいつは一体何人の冒険者を見届けてきたのだろう。私がここに滞在して二ヶ月になるが、何度も顔を突き合わせるような冒険者は多くはない。精霊協会に雇われたような冒険者でもない限り、彼らは一所に留まることはない。それが冒険者だからだ。留まって得られる利益よりも、新たな地域での出会いを求める。あと二ヶ月も滞在したら、私がここにやってきたときからいる顔なんて殆ど消えてしまうのだろう。
続きを読む