精霊協会本部から子供の足で30分ほど。ハイデルベルクの大通りから路地裏を抜けた先、小さな通りにその建物はあった。大通りと比べると随分小さな通りだが、少し首を回せばいくつかの屋台や馬車が目に映る程度には人通りがある。そして、私の目の前にある何の変哲もない小さな建物。元協会の冒険者が経営しているというそこが、私に紹介された宿だった。経営者が元協会員とはいえ、利用者の殆どは一般の冒険者であると聞いている。
ドアを一つ押し開ければ、ロビーには数名の若者たち(と言っても私の背丈よりはずっと高い)が談笑していた。外に逃げていく風と共にコーンスープの甘い匂いが運ばれてくる。彼らは夕食の時間が来るのを待っているのだろう。その腰に下げられた剣がただの鉄であることを確認して、私はその足を前へ進めた。
受付の女に協会から渡された会員証を見せると、彼女は驚いた様子もなく部屋まで案内してくれた。老婆がうたた寝をしている角を曲がり、階段を上った先。突き当りにあるうちの一つが私の部屋だった。
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