第14回更新一言メッセージ

 目の前で、その男が握るペンがつらつらと書類の空白を埋めていく。ソファーに座った私の目からは、受付に置かれたその紙は見えない。だが、あいつが何を書いているのかぐらいは見なくても分かる。前回の登録の時に自分で書いたものと全く同じ書類だ。ただ一つ違うのは、前回の私が精霊兵のレンタルを依頼したのに対して、今回はこの目の前の男──トライと組んで大会に出るということ。

 最初の秩序杯の準々決勝で負けてからというもの、この男とは何度も大会でぶつかることになった。混沌杯の予選ブロック決勝、大武術会での準々決勝。いずれも大会の終盤で、常にあの男は立ちはだかってきた。あいつの戦績を並べてみれば、優勝、準優勝といった輝かしい結果が並ぶことだろう。この精霊協会の中で、最も気に食わない人間だ。自分がこんな男と組むことになった背景を一言で説明するなら、事故としか言いようがない。良いように丸め込まれてしまった。こんなはずではなかった。
 知っている。精霊兵でトーナメントを勝ち進むことがもう難しいことぐらい。知っている。秩序杯で私が簡単に負けてしまったことは、他の協会員たちが精霊兵よりも強くなったことの証であることぐらい。そして、このペアマッチで玄武と組んだところで、そうそう勝ち進めるものではないということも。
 だからってよりによってこいつと組むこともなかったのに! たまたまばったり出会って、たまたま睨みつけたら話しかけてきやがった!
 前のペアマッチではこいつも私も、準決勝で決勝パーティに敗れた。こいつを負かした片割れは、私を倒したチーム。秩序杯で組んでいた四人が、決勝でぶつかり合ったのだという。それもまた気に食わない話だ。が、準決勝で敗れた二人が組んだところで、果たして上手くいくのだろうか。私が怪訝そうな顔を作った時、あいつは策があるというような自信に満ちた顔をしていた。気に食わない。そして今、あの時と同じような笑顔を浮かべて、あいつがこちら振り返った。
 処理すべき作業は終わったのか、手にペンと書類を持って、こっちに歩いてくる。最後に必要なのは私のサインと判だ。察した私は、口に含んだストローからオレンジジュースの残りを吸い出す。ズズズと下品な音を立てて、コップに残ったジュースが蠢く。トライが何やらきれいごとを並べているようにも聞こえるが、聞く耳は持たない。私はただ手を差し出して、その書類をよこすように催促した。

ペアマッチの相方、E-No95のトライさんをお借りしました!

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