ハイデルベルクの大きな通りにつながる裏路地は昼間でも薄暗い。足元に気を付けなければ、不意によく分からないものを蹴り飛ばしてしまう。このような道には慣れていないのだろう、私の前を歩いていた女性が小さな悲鳴を上げた。それに続いて辺りにはカラカラと何かが転がる音が鳴り響く。驚いた猫が喚きながら路地裏を駆けていく。その声に驚いて女性が悲鳴を上げて走り去る。まるで精霊術の発動連鎖のように、道路に落ちているいろんなものが二人によって連鎖的に蹴散らされいく。よくもまぁ、一般人がここまで連鎖を起こせるものだ。私の目が一連の騒ぎを見届けると、路地裏に似つかわしくないヒールの音はすでに光の向こうへと消えていた。
路地裏の騒動こそすぐ暗闇に呑みこまれたが、この場にいるのは騒ぎを起こした一人と一匹だけではない。今の騒ぎで起こされたのか、暗闇の中にはいくつかの視線が浮かび上がっている。太陽から隠れるようにして眠る、どうせこの街にとって取るに足らない人間達だ。彼らの視線は気にも留めず、私の足は前へと進んでいく。
先程の女性が悲鳴を上げた先で、私の目が白くぼやける何かをとらえた。ダイスだ。賭博好きの浮浪者が夜中に騒いでいたのだろう。酒に呑まれて忘れられたものか、あるいは賭け事の最中に何かが起こって、道具だけ置き去りにされたのか。考えたところでダイスが答えをくれるわけでもない。意味を持たない数字を主張したまま、ダイスは再び路地裏に取り残された。
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一言メッセージ
第1回更新一言メッセージ
精霊協会本部から子供の足で30分ほど。ハイデルベルクの大通りから路地裏を抜けた先、小さな通りにその建物はあった。大通りと比べると随分小さな通りだが、少し首を回せばいくつかの屋台や馬車が目に映る程度には人通りがある。そして、私の目の前にある何の変哲もない小さな建物。元協会の冒険者が経営しているというそこが、私に紹介された宿だった。経営者が元協会員とはいえ、利用者の殆どは一般の冒険者であると聞いている。
ドアを一つ押し開ければ、ロビーには数名の若者たち(と言っても私の背丈よりはずっと高い)が談笑していた。外に逃げていく風と共にコーンスープの甘い匂いが運ばれてくる。彼らは夕食の時間が来るのを待っているのだろう。その腰に下げられた剣がただの鉄であることを確認して、私はその足を前へ進めた。
受付の女に協会から渡された会員証を見せると、彼女は驚いた様子もなく部屋まで案内してくれた。老婆がうたた寝をしている角を曲がり、階段を上った先。突き当りにあるうちの一つが私の部屋だった。
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