《増幅:強打》

術名:ヘリカルカノン。
永久カノン。またの名を螺旋カノン。
螺旋を描きながら炎の楽譜が躍る。

精製系列のイラストとは影の付け方と加工方法を変えてるんですが、髪に乗算レイヤーでテクスチャ貼った方が良かったかなぁ。

術イラスト
Lv1
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第4回更新一言メッセージ

 雨でぬかるんだ地面の上には、くっきりとした二筋の車輪の後。その線に数匹のゴブリンの足跡がついていく。私たちが彼らと出会ったとき、すでにフーゴの馬は二度と走ることのできない体になっていた。隊商を仕留めるときはまずはその足から。盗賊団程度の数で隊商を襲撃するのならば、馬を奪うことは諦めてそうする方が理に適っている。しかし彼らにとっての不幸は、襲撃後にこのような逃走劇を繰り広げる羽目になったことだろう。馬を使わずに運ぶには、あの荷台はあまりにも大きすぎる。かといって、手に持てる荷物だけを選定して逃げる程彼らはあきらめが悪くもなかった。
 私が確認した限りでは逃げたゴブリンは4匹。その中で他のゴブリン達に指示を飛ばしていた、やたらと恰幅の良い個体がリーダーなのだろう。残る三匹は先程倒したゴブリンと同程度の雑魚。しかし、同時に戦うとなると流石に分が悪い。どうにかして彼らの戦力を潰さなければ、追いついたところで勝ち目はないだろう。

 精霊術と精霊武具。これらを持って挑めば、人間には到底勝ち得ない魔物に対しても対等に戦うことができる。とはいえ、習得した直後の段階では人の身体能力の域を超えられるほどの劇的な効果はない。ゴブリンを追いかけるこの脚は、普通の子供の足である。縮地や加速といった、強化系の精霊術を習得しているのならばともかく、武器と防具に魔力を与えることしかできない私の体は、人並みの速度でしか前に進めない。
 前を走るゴブリンたちの後ろ姿は、私の目には一向に映らない。目に映らない、というだけで彼らの姿を捉えてはいるのだけれども。その距離は200メートルほどだろうか。先程までいた開けた平原ならばともかく、森の中の曲がりくねった道だ。目を使って彼らの姿を確認できるのは彼らに追い付く直前のことだろう。それはむしろ、こちらにとってはありがたい。街道を走る上では距離は200メートルでも、直線距離にしてみれば大分縮まる。射程範囲だ。私はランタンを持つようにして、右手を前にかざした。

 人間が扱える術において、おそらく精霊術に並ぶ力はこの世界にはないだろう。実際に修得してみて、その一般論が正しいことは痛感させられた。精霊力で支配されるこの世界において、精霊力を扱うことが最も効率が良いことは考えるまでもなく明らかだったのだ。だけども、力を持たず、技術の恩恵を受けられない人間は自分たちで何とかしようと努力をする。暗がりに生きるだって、一時を凌ぐ術ぐらいは持ち合わせている。精霊術が魔物の体を吹き飛ばすのならば、それは魔物に石を投げつけて追い返す程度の力でしかないけれども。
私の手のひらを中心に、一筋、二筋、霧の帯が形作られていく。通り雨によって下がっていく気温も手伝ってか、今日は冷気の集まりが良い。野犬やオオカミに襲われたても、少しその前足の指を凍らせてやればたちどころに奴らは逃げていく。冷気の中では、生物の動く速度も鈍り、収穫した果実が腐るまでの時間も伸ばすことができる。その冷たい檻の中で、世界は遅延し、停滞する。
 私がここに辿り着くまでの間、この体を守るために磨き上げた力だ。精霊術には遠く及ばなくても、今の自分の手札を考えれば使い道はある。魔力の槍でも習得していれば、この距離から攻撃して相手の腕の一本でも潰せただろう。でも、ないものは他で代用するしかないのだ。この距離から前を逃げる荷台の車輪を氷漬けにする。彼らの姿を捉えられる私の力と、ぬかるんだ道で泥を纏った今の車輪ならば、ピンポイントで凍らせることは十分に可能だろう。もたもたしていると奴らは森を抜ける。私は奴らの車輪を捉えるため右手に力を入れ、右の車輪と──

──その隣で荷台を押していたリーダ格のゴブリンを、地面に括り付けてしまった

第3回更新一言メッセージ

交易品を運ぶ荷馬車は乗り心地が悪い。地面に散らばる石ころの鼓動を直に受けながら、私の耳は精霊街道の先を飛ぶ鳥の鳴き声と、後ろに連なる馬車の音、そしてすぐ近くで延々と続く商人達の話を聞き分けていた。隊商の先頭を走るこの馬車には、護衛としてつけられた私、隊商を指揮するアルベルト、そして商人が数名乗っている。他の馬車にも一台一人、最後尾の馬車では数人が荷物の警備にあたっているらしい。協会の冒険者とは比ぶべくもない安値の傭兵達だが、人で構成された盗賊の相手ぐらいならできるだろう。
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