護衛という言葉は、おしゃべりな人間の話を聞くことだっただろうか。そんな疑問が浮かぶほどに、私が受けた依頼には話を聞くという面倒な雑務が含まれていた。今回の護衛対象は私と変わらないただの少女。正確には”変わらない”という表現を当てはめたくはないほどに、彼女と私の性格は大きく違っていた。
アマーリア。ヘルマンから護衛を頼まれたその少女の口は、歩き始めてから一度も止まることがない。相槌を打つ必要もあるのか分からないほどに、ただひたすら彼女の話を聞かされるだけの道中。カルフまでの隊商護衛と比べればその距離はゼロにも等しいが、しかしこうして一対一で他人の話を聞かされ続けていれば感じられる仕事の重みは数倍。流石、協会からの依頼レベルが一つ上だけのことはある。
しかしこの少女、ヘルマン博士の助手というだけあってその知識量は半端なものではない。知識量、というよりは博士の発明に対する記憶量というのが正確なところかもしれないが。それが彼女の助手としての強みなのか、あるいは子供が訳も分からず地図にある町の名前を覚える現象でしかないのかは分からない。どちらにしても、彼女のおかげでヘルマン博士がどのような研究を行っているのかはよく分かった。研究室に入った時に見た妙な閃光や、煙の臭いも納得がいくほどに、あの博士の研究はデンジャラスだった。
休むことなくしゃべり続けるアマーリアと、それを話は私の耳を通じて右から左へと抜けていく。そしてその後ろから二つの影。追跡者の実力は大したことがないし、このあたりで魔物が集団で人に襲い掛かるという話も聞いていない。さてどこで潰そうか、と頭の半分をそちらに持っていく。アマーリアの話を中断したいならば即座に戦闘に入っても構わないが、彼女に戦闘の経験があるとは思えない。ましてただの少女だ、魔物と出会って腰でも抜かされては面倒なことになる。私の腕だけで彼女を運んで行けるほど、精霊術は柔軟ではない。それならば第二研究所にたどり着いたところでおびき寄せた方が戦闘後の処理も楽に違いない。依頼の内容は彼女の護衛。第二研究所の場所を魔物に教えるなという内容は聞いてはいない。
そんな風に打算を巡らせていると、彼女の足がピタリと止まった。