第8週目



「おかえりお姉ちゃん。
 お姉ちゃん宛ての荷物が届いてるよ」


「私に?」

 その日、私達の家に届いたのは一つの荷物だった。
大きさにして医療キット一つ分程度の荷物。
頼んだ覚えのない届け物に、何か嫌な予感がした。

「差出人が書いてない……」

 私が所属している組織からの支給品なら、一言連絡があってもおかしくない。
なによりこの箱なら現地で渡してもらって問題ないサイズだ。
けれど、それ以外に誰が私達の住所を知っているだろうか。
 他に私の名前と住所を知っている人がいるとすれば、
この街に来た直後にサラサの検診を頼んだ病院……?
 空白の差出人が、私たちに無言の圧力をかけている。

「姉さん、とにかく開けてみよう。
 中身を見ないことには何も言えない」


「そう、そうだね」



「……」

「薬……?」

 箱の中には薬が詰め込まれていた。
そしてそれは私達にとって、とても見慣れた薬。
サラサの、病状を抑える薬。
半年分、いや一年分はあるだろうか。
 私達の住所を調べることが出来て、
なおかつサラサの病気について知っている。
そしてこれだけの薬を用意することが出来る……となれば、
思い当たる差出人は一つしかない。

「差出人は……父さん達以外、考えられない」

「あの人達がそんなこと……する?」

「サラサ達には厳しかったけど、
 父さん達はずっとサラサのことを心配してたんだよ」


「……」

「でも、なんで……なんでこんなに私の薬が用意できるの……?」

「こんなに一度に買えるなら、
 私を捨てる必要も、お姉ちゃんが危ない目に合う必要も無いじゃない……!」


 それが私達の疑問だった。
サラサの薬は製法上一度に大量に作ることが難しい薬だ。
それでいてその薬が必要となる病気が珍しいため、
製造する会社もラインも増えず、高い価格のまま遷移している。
 要するに、割に合わないのだ。
製造会社が作っても割に合わない。
けれどもごく僅かだが求めている患者がいる。
だから製造ラインの維持費をそのまま価格に乗せて、この薬は流通している。
私達の実家のようにお金を持っている人間か、
あるいは薬代を税金で負担し合う地域の人間だけがその恩恵に預かることができた。
 それが私が大学で知り得た現状だった。
新しく代替になる安価な薬を開発するには、研究者が足りていなかった。
私の頭一つでは、一年二年で状況を変える事はできない……そういう見通しだった。

「一度、父さんたちに連絡を取ってみよう。
 ……何か状況が代わったのかもしれない」


 通信は届かない距離にいるため、手紙を出すしかない。
状況的に、薬の差出人は両親で、住所は向こうが調べ上げていると判断して間違いないはずだ。
手紙を出すことでこちらの住所が向こうに渡るのは、もう問題ではない。
何か状況が改善したのか、その答えが知りたくて、私は祈るように手紙を出した。


 そしてその返事が、両親から返ってくることはなかった。