「ハイドラライダー……ですか?」
家を出て仕事を探していた私に、それを持ちかけてきたのは細身の男だった。
「えぇ、そうです。あなたもよくご存知でしょう? ハイドラライダー。
未知の機体に乗り込んで戦場を駆ける……」
「……」
正直、私は乗り気ではなかった。
いくら大金を稼げると言っても、戦場で命を奪い合う仕事だ。
私の身に万が一があっては弟たちを守ることが出来ないし、
戦場で恨みを買って二人を危険な目に巻き込んでしまうかもしれない。
だが、真っ当で安全な方法で二人を養っていくことが厳しいことも知った。
この町で、私が二人を養っていける仕事なんて極々限られている。
ましてやサラサの薬代を工面するなんて……。
「妹さんのご病気、症状を抑える薬にとてもお金がかかるんでしょう?」
「──! どうしてそれを──!」
「あぁ、失礼。私共はあなたのお父様とも取引をしておりましてね。
妹様がご病気だと伺って、勝手ながら調べさせていただいたのです。
何かお役に立てることがないかと、ね」
「……!」
「失礼ながら、あの薬を買い続けるのは、一般人にはとても無理な話です。
あなたのお父様でさえ、諦めざるを得なかった……とても貴重で、高価な代物です」
「……」
「ですが……ハイドラライダーでしたら話は別です。
英雄には莫大な報酬が待っていますよ。
それもそこらの農夫や商人が数年数十年かけて稼ぐような報酬が……ね」
この時私は、その話を一旦保留にした。
たしかにお金の問題はなんとかしなければならない。
家を出る時に一緒に持ち出した薬の数も限られている。
その薬がなくなれば……両親が選んだ選択肢を、私の目の前で見せつけられることになる。
けれども、私の命を危険にさらすリスクは、本当に二人のためになるのだろうか……。
後日、トリトにも同じ男が接近して、ハイドラライダーになることを勧めたと聞いた。
あの男は今の私達の状況についてもすべてトリトに話したらしい。
トリトは私の了承を経てからハイドラライダーになると回答した。
弟の方が現実を受け入れるのが早かったのだ。
それ以外にサラサを救う手立てはないのだと。
こうして私は二択を突きつけられた。
ハイドラライダーになるか。ならないかではない。
私がなるか、弟がなるか、だ。