「それじゃ、行ってきます」
「どうか無理はしないように、姉さん」
「気をつけてね、お姉ちゃん」
お兄ちゃんと一緒にお姉ちゃんを見送ると、私はすぐに窓へと駆け寄りました。
真新しいカーテンを開いて、窓の鍵を外します。
朝の冷たい空気が、喉を通り抜けていきました。
そこに広がるのは晴れ渡った空と、朝日に輝く街。──その中に仕事先へ向かうお姉ちゃんの姿。
まるで私に気づいたかのようにお姉ちゃんがこちらを向き、手を振りました。
私もそれに応えて大きく手を振り返します。
いつもと変わらない日常が今日も始まります。
お姉ちゃんとお兄ちゃんとの三人で暮らして、今日も生きていく。
誰か一人が欠けても、私の家族は成り立ちません。
私達が生活していくためにお姉ちゃん一人に随分苦労をかけてしまっています。
だから私は早く、家事をしたり仕事に就いたりして、お姉ちゃんを支えられるようになりたいと思っています。
そのためにも病気を直して────
…………病気……? 病気ってなんだっけ……?
あれ…………?
「──のカル────せて──」
「──高き────」
「爆撃地──到──」
また、この夢だ。
「──標を発──闘を開────」
「────ティ、出撃し────!」
最近、夜になるといつもこんな夢を見ます。
どこか、知らない場所で沢山の人が戦っている夢。
でも、今日はいつ寝たんだっけ……さっきは朝だったような……。
夢の中で混濁とした記憶を探っているうちにも、夢の戦場はどんどん動いていきます。
「──さん──姉──!!」
「捉え──」
私が乗っている機械に命令すると、甲高い音が鳴り響きました。
モニターに映るのは無数の光線が霧を裂いていく光景。
画面の向こうの機械が弾ける度に、レーダーの光がまとめて消えてきます。
そんな、荒唐無稽な、夢。
レーダーに映る悪い敵を全部倒す頃に、現実の世界で朝が来ます。
それが夢の終わり。
全部倒さないと、いつもの生活に戻ることができません
だから、全部倒して、目を覚まさないと。
早くこの夢、終わらないかな。
Fin.