小さい頃から姉は天才だった。
学校でも、コンクールでも、姉は自然体で親の望む結果以上のものを出し続けていた。
親から叱られ続けていた俺とサラサを褒めてくれたのは、いつも姉だった。
俺達の済む地域には、ハイドラライダーを募集している組織がある。
姉と俺は、その組織でハイドラライダーとしてのシミュレーションを行った。
ハイドラの操縦棺を模した装置から、モニター越しに敵機に見立てた的を撃ち抜いていく、
実戦と勘違いするような精密なシミュレーション。
家庭用のシミュレーターで練習した腕を、そこで試したのだ。
シミュレーションを終えて、姉は俺の成績を褒めてくれた。心から褒めてくれたのだろう。
俺のスタイルはいわゆる『ステルス』と言われる戦法だった。
敵に狙われないよう立ち回りながら、確実に取れる点を撮っていく。
生半可なハイドラライダーの希望者よりは高い得点を取って、
望めば組織から本物のハイドラが与えられるという水準には達していた。
一度も被弾しなかった点と、撃墜数の多さをとにかく姉は褒めてくれた。
俺は、誰が挑んでも安全に落とせるような確実な的を落としていただけにすぎない。
戦場で活躍できるような戦い方でないことは……稼げるハイドラライダーでないことは俺にも分かっていた。
けれども姉は、俺の出した結果が本当の戦場で求められる要素なのだと言っていた。
一方で、姉は『バーサーク』に分類されるスタイルで戦っていた。
多少の損傷は物ともせず、得点が高く難しい的を倒していく。
総合得点は圧倒的に姉が優れていた。
姉の背中だけは今でも格別に遠い。それを突きつけられる結果だった。
そして、姉は俺の戦いを見てまた前へと進んでいくのだろう。
きっと姉は、俺の戦いから何かを拾い上げたのだ。
俺を褒めるときの目が、優しさでなく、好奇心で輝いているときはいつもそうだった。
俺が何ヶ月もかけて積み上げた技術や経験を、姉はひと目で学んで、拾い上げて先に進んでいく。
俺の努力が、姉の力として吸収される。
だから俺は安堵した。
この姉ならば、戦場に送り出すことができる。
姉でなければ、俺たち三人が生き延びることはできないのだと。