第26週目



「……生きてた?」

「そうだ! 姉さんが生きていたんだ!
 ハイドラに乗っているときに通信が入って……
 姉さんはすぐに飛んでいってしまったんだけど……」

 そう言って喜ぶ兄の表情には、恐怖と焦燥感が張り付いていた。
 兄がハイドラライダーとして働き始めて何週間経っただろうか。
久しぶりに家に帰ってきた兄は、開口一番に姉の存命を私に告げた。

 それが『残像』であることは明らかだった。
だって、姉さんが死んでしまったことは、私達が痛いほどよく知っているのだから。
 姉が戦場にいた。そう信じなければ兄は心がどうかしてしまうのだろう。
姉が死んだ日から兄の行動は、不安を感じさせるものばかりだった。

「必ず姉さんを連れ戻してくるから、
 またしばらく戻って来れないと思う。
 それまで待っててくれ」

「ねぇ、兄さん……」

 飛び出すように兄は扉を開けて、再び戦場に向かっていった。
すがるように兄を掴もうとした私の手は、ずっと虚空に伸ばされたまま。

「兄さん……待って……」