コトコトと液体が煮込まれる音が鍋を伝って部屋に響く。
部屋を満たしているのはシチューの匂い。
鍋の中では細かく刻まれた人参と大きなじゃがいも、そして鶏肉が顔を覗かせる。
もう一つの小さな鍋の中では、ブロッコリーがゆらゆらとお湯の中を泳いでいた。
隣のまな板からはもう一品を追加する包丁の音。
細かくなった野菜がボールに入れられながら、
時折焦げ付かないようにと鍋の中身がかき回される。
テーブルにはクロスがかけられていて、
その上には空のプレートと三人分のスプーンとフォーク。
蛇口の栓をひねると澄んだ水が流れてくる。
具材に火が通るまでの空き時間を利用して、使った器具が洗われていく。
全ての器具が洗い終わると、もう一度鍋の中身が回される。
火を止めて別の鍋から取り出したブロッコリーをシチューの中に入れる。
蓋をされた今日の料理は、その役割が来る時を待つ。
窓の外は霧で覆われていた。
霧で覆われた待ちは、夕闇の訪れとともに速やかに闇の中に溶けていく。
帰りを急ぐ大通りの足並みが、暗くなっていく霧を揺らめかせる。
彼らを待つのは見慣れた帰り道と我が家の明かり。
明かりの中では、温かい食卓と笑顔が待っている。
それが家の役割で、帰りを待つ人間の役割だ。
けれども。
今日もこの家に誰かが帰ってくることはなかった。