第2週目



「それじゃ、行ってきます」

「どうか無理はしないように、姉さん」

「気をつけてね、お姉ちゃん」

 弟と妹に見送られ、私は霧に包まれた街へ──その先で私を待つ基地と仲間たちの元へと向かう。
真新しい軍服の襟を直し、傾いたゴーグルを頭に置き直す。
いつもは何とも思わない霧の空気が、今日はやけに喉に絡みつく。

 親の庇護のもとを離れた今、これからは私が下の兄弟を養っていかなければならない。
 弟のトリトはしっかり者で、努力家だ。
ハイドラの操縦に関してはシミュレーターで私よりも好成績を示した。
戦場には彼が出稼ぎに行くとも言ってきたけれど、
兄弟二人を……サラサだけでなくトリトまで巻き込んでしまったのは私だ。
姉として、責任はきちんと取る。
二人を養っていくためにも戦場には私が出なければならない。
 妹のサラサは生まれたときから病弱で、家の外にはあまり出たことがない。
越してきた新居にまだ慣れていないようで、少し咳が増えたように見える。
本当は今の小さなアパートではなく、もう少しまともな家を用意してあげたかった。
症状自体は数年前よりずっと落ち着いていて、毎日薬さえ飲めば家の中での生活には支障がない。

 少し歩いて、後ろを振り返る。
坂の上に建てられたアパートの、私達の部屋には明かりが灯っている。
 これが私が守りたかったもの。
三人一緒に生きて、同じ場所で生活を続けていく。
誰か一人が欠けても、私の家族と呼ぶことはできない。

 だからいつか、ハイドラライダーとして戦果を上げて、お金に不自由しなくなったときには、
みんなで父さんと母さんの元に戻って、謝らないとね。