霧に包まれたこの街にも雨は降る。
雨によって休日の予定がなくなった俺は、ただ真っ白な窓の外を見ていた。
姉がハイドラライダーになってから五ヶ月が経った。
俺達はずっと、姉の帰りを、無事を待つことしかできない。
最初は送り出すことに不安があったが、姉は戦場でも上手くやっているようだった。
テーブルの上には医療に関する論文が散らばっている。
姉が出撃前に読んでいたものだろう。
ハイドラライダーとしての仕事の合間にも、
姉はサラサの治療法に繋がる研究がないか日々探しているようだった。
その論文の束の上には、亀を模した置物が置かれている。
片付けないでください、の合図だ。
見た目はただ乱雑に置かれているだけの紙の束だが、
姉にとっては意味のある状態で残されているらしい。
論文には手を触れないようにして表に見えている文章に目を通す。
その中にはハイドラを扱う企業の名前もいくつか見られた。
ハイドラを扱う会社は、何も戦争のことだけにお金を注ぎ込んでいるわけではない。
ハイドラを基幹事業として、それ以外にも幅広く手を伸ばしているところもあるのだと、いつだったか姉が語っていた。
そして、姉の目標はそういった企業がサラサの症状に目を向けるようにすることだとも。