その日はずっと、小雨が降っていた。
当たり前のように存在する霧と合わさり、数メートル先の人の表情を伺うことも難しい。
両親の葬式が行われたのは、そんな陰鬱な日だった。
両親にはずっと、良い感情を持っていなかった。
俺がどれだけ努力しても、どれだけ頑張っても、
両親の期待を超えることはできずに叱られてばかりだった。
両親に微塵も情を抱かなかったのは、
小さい頃に俺のことを褒め続けてくれた姉の存在も大きいだろう。
子供にとっての信頼と絶対の対象となる存在が、両親から姉に入れ替わったのだ。
そして、最後に決め手になったのはサラサの施設入りだった。
両親にとって、俺とサラサはいつでも切り捨てられる存在である。
そんなメッセージを、俺は言外に受け取った。
だから俺にとっても同様に、両親は切り捨てられる存在になった。
両親よりも姉を選んで家を飛び出し、
そして実家のすべてが失われた今も、後悔は感じていない。
遺産のすべてを失った両親の葬儀代を出してくれたのは、両親が雇っていた小作人たちだった、
せめてもの恩を返したいと、少しずつお金を出し合ったらしい。
そして今、両親は共同墓地の小さな墓に埋められた。
他の多くの墓と見分けのつかない、ごく一般的な形状の墓標。
地主として地域で力を持っていた彼らの、とても小さな最後だった。
今の自分に残った感情は何だろうか。
両親が死んだことも、親の財産が全て失われたことも、あまり心には響いてこない。
それよりも、これでもう両親が突然家にやってきて連れ戻されるような、
そんな危機感を持たずに三人で暮らしていける、という安堵の方が大きいのかもしれない。
けれども、やはりというべきか、姉にとってはそうではなかったようだ。
遠くで話している姉の顔色は、小雨と霧に包まれて俺からは見えなかった。