第25週目



「──ナ・ロス──しま──」

 それは聞こえてはいけない声だった。


「嘘だろ……」

 霧の奥に浮かぶ機体のシルエット、通信装置から聞こえてくる声色。
どちらも、自分のよく知ったものだった。
ペリステラ。鳩の名を冠した姉の機体が、霧の奥で動いている。

 そんなはずはない。姉は死んだはずだ。
あの機体は修理もできない状態になって廃棄されたのだ。
折れた翼も、鉄の塊となった操縦棺も見た。
この戦場に、その機体が飛んでいるはずがない。
そこに姉がいるはずがない。

「なんで……」

 出会った瞬間から頭は働かなかった。
霧の戦場で撃墜されたパイロットが、残像となって戦場に現れるという話は聞いたことがあった。
けれども。けれども実際に肉親が目の前に現れた時、即座にそれを残像として認めることなど出来るはずがなかった。

 甲高い音を立てて目の前の機体が動き出す。
立ちすくんでいるうちに、その影が小さくなっていく。
慌ててスロットルを全開にする。

「待って! 姉さん待って!
 俺もついていくから! 置いてかいないで! 姉さん!」

 目の前の機体を追いかけ手を伸ばす。
ハイドラに備え付けられた四つの腕は……いやたとえ、腕が何本あろうとも、

残像を掴むことはできない。