第13週目



 父は死んだ。
 母も死んだ。
私の浅はかな行動によって、恩人である二人の命を奪ってしまった。
 私の力が及ばなかった場合に、トリトを帰すべき家もなくなった。
サラサの症状だって、私の稼ぎでずっと抑え続けられる保証もない。
私はあの子達からどれだけのものを奪えば気が済むんだ。
最初から最後まで奪い続けてばかりじゃないか!

 けれども、今は自分の愚かさを悔いている場合ではない。

 現実に立ち向かわなければならない。
両親の資産と、あの大きな家と、土地と……そして、両親二人分の身体の対価が、サラサの一年分の薬だ。
子供から見れば、途方もない富豪に思えた両親の全て。
それがサラサの一年分の命で、そしてこれから私が背負っていかなければならない金額なのだ。
 ハイドラなら稼げる。ハイドラなら手が届く。

「……」

 稼げるときに稼がないと、一年後に必ず首が締まることになる。
この近辺の情勢を見る限り、今が、これからが一番稼げる時期になるはずだ。
 戦争は待ってはくれない。
ハイドラライダーが一番稼げるのは戦争の間。
ハイドラで稼げる期間は限られている。
ハイドラが次々と戦場に投入される局面は何年も続きはしない。
戦争が終われば私がお金を稼ぐ方法も限られてくる。


──ならば、私が今この戦場でやるべきことは一つ。


「ラナ・ロスティ。戦闘位置を申告。最前線に出ます」

 リスクを取らなければリターンは得られない。
最前線に飛び出していけば、破壊されていない敵の数も、敵の索敵範囲に入る危険性も格段に増加する。
撃墜レベルのダメージを負って、これまでどおり生きていられる保証もなくなる。
けれども同時に、自分が落とすことのできる敵の数も、格段に増える。
撃墜は戦果だ。戦果は報酬だ。
今の私に必要なのは、多額の報酬なのだ。

「ラナ・ロスティ、出撃します!」

 姉としての責任を果たす。
死んではならない。けれども、死ぬ気で戦わなければならない。
私は長女なのだから。私の後ろには、二人の命が控えているのだから。
姉としての責任を果たす。多くの敵を討ち取って、必ず帰る。
操縦棺から伝わる振動が、いつもよりも重く響いていた。