第10週目




 両親の死を伝えられた私はひどく動揺していた。
最悪の場合、トリトだけでも帰す場所がなくなったのだ。
そしてその引き金が、おそらく私にある……。
 けれども私は今、私の家族の中で
トリトとサラサを守れるのは、本当の意味で私だけになったのだ。
自責の念にとらわれて動きを止めてはいけない。
姉としての責任を果たさなければならない。

「……聞きたいことがあります」

 相手の目にも映るように、ゆっくりと右手を下げながら問いかけた。
右手はポケットの上に。その中には護身用の拳銃が入っている。

「……えぇ、どうぞ」

 もちろんそんなものを、基地の中で撃つつもりはない。
十中八九撃つことはないが、冗談では済まされないというメッセージ。
とてもスマートな方法ではないが……私は先程の動揺で攻撃的になっていたのだろう。

「あなたたちの組織は、両親が殺されることを知っていましたか」

「……はい」

「……」

 そう、彼らは両親が死ぬことによって利益を受ける側の人間だったということだ。
両親の死後の負債についてもやけに詳しいことから、
なにかしらの『おこぼれ』を受け取っていたことは間違いない。

「……では、両親の殺害に関わっていますか」

「……いいえ」

「……」

「……そうですか。失礼しました」

 そして、私は軽く両手を広げ、へその辺りで組んだ。
その手に何も握られていないことは伝わったようだった。

「理解が早くて助かります。それで、今回のパーツの取引の件ですが……」

 答えがイエスでないことは分かっていた。
たとえ彼らが両親の殺害に関わっていたとしても、ここでイエスと答えるはずがない。
これは形式上の問答だ。
本当のところは自分で足を動かして調べるしかない。
 そして彼は、殺害への関与は明確に否定した。
それが事実であれ嘘であれ、私の前でその立場を貫くことがメリットになるということだ。
だから私はその場では敵意を解いた。
 今この場で私達が確認したことは、
目の前の組織が、まだ私を取引相手と見ていること。
そして私が、まだ彼らとの取引を続けること。
お互いにここで敵意を向ける必要がないのなら、私達はまだ取引相手だ。
今はそれで良い。

 今、私が優先するべきことは、弟と妹の安全と生活を確保することだ。
両親の死が借金によるもので、私たちに危害が及ぶ気配がないのなら、
その死の真相は一度後回しにせざるを得ない。
余計な争いに首を突っ込んで、弟たちを危険な目に合わせる訳にはいかない。

 けれども。けれども私の報酬では足りない……。
まだ、足りないのだ。サラサの薬の分を入れると収支が釣り合っていない。
このままではジリ貧で、遠くないうちに資金が底をつく。
私は……。